農家というと昔ながらの「スキとクワで畑を耕す」「過酷な農作業」というイメージ? それとも「のどかに家族が食べる分だけをつくる」「晴耕雨読で悠々自適」そんなイメージ? 実際には農家の数だけ農業のやり方があり、もはや画一的な農業の姿はないという。
そんな農家について楽しく語り合うセミナー「100農家いれば100通りの農業」が2月14日、東京都中央区日本橋のサイボウズ東京オフィスで行われた。
セミナーではサイボウズのkintone(キントーン)を導入した農家やJAに加え、農林水産省などの農業関係者、サイボウズの担当者らが登壇し、さまざまな事例や成果をにぎやかに共有した。ここでは全10セッションを振り返る。
オープニングセッション「100農家いれば100通りの農業」
農業ジャーナリスト 窪田新之助氏
サイボウズ アグリ担当 中村龍太氏
opnlab 小林利恵子(モデレーター)
オープニングセッション「100農家いれば100通りの農業」では、農業ジャーナリストの窪田新之助氏と、サイボウズ アグリ担当の中村龍太氏が対談。モデレーターをopnlabの小林利恵子が務め、今回の企画の趣旨などを解説した。
■農業とのかかわりは?
窪田:農業ジャーナリストとしていろいろな仕事をしています。その中のひとつとして、21世紀政策研究所で情報化によるバリューチェーンの構築というプロジェクトをしていますが、その時に龍太さんにお手伝いしていただき、今回のご縁となりました。
龍太:司会の中村龍太です。サイボウズだけでなく百姓としても働いております。サイボウズでは社長室でアグリ担当、そしてNKアグリというリコピン人参やレタスで有名な農業の会社の社員でもあります。窪田さんとは、イベントでモデレーターをお願いされ、仕事をご一緒するようになりました。
小林:最初、お二人のどちらから声をかけられたのですか。
窪田:4年前、時事通信社の記者の方から「農業をやっていてITに詳しい変な人がいる」という話を聞き、覚えていました。昨年、日本経済新聞社主催の農業とテクノロジーをテーマにしたイベントの企画段階で「情報化とバリューチェーン」というセッションを設けたいと考えていた時、真っ先に浮かんだのが龍太さんでした。延べ3000人を超える人が来場しましたね。
小林:注目されているテーマだからでしょうか。
窪田:米国では、ここ3年でアグリテック(AgriTech=Agriculture+Technology)に関する投資は約1兆円行われているそうで、非常に注目されている分野です。
■農業とkintoneの関係は
小林:今回、龍太さんに考えていただいた「100農家いれば100通りの農業」というテーマですが、まったくその通りだと思うのです。農家は規模もさまざまなら作物もさまざまで、しっかり農業を伸ばしたいけれど、なかなか成長にまで手が回らないというのが実情。そこでIT、そしてkintoneが手助けをできるのではないか、というのが今日のセミナーの趣旨の一つです。今日は農家の方だけでなく、産官学さまざまな方に参加していただいており、それぞれの視点から多面的に、そして具体的に見ていただき、情報を持ち帰っていただけるのではないかと思っています。
龍太:学びの場ですが、それぞれ15分ほどのセッションで語りつくすことはできないため、今回はきっかけづくりをしていただきたいと思っています。
小林:皆さんこちらに来たということはkintoneはご存じということですか。挙手をいただければありがたいです。
(多くの人の手が挙がる)
龍太:すごいですね(笑)。
小林:もう説明しなくていいですかね(笑)。
龍太:使っている人は?
小林:半分くらいですね。いちおう、開発の経緯と使い方をイメージする場面の解説をしておきましょうか。龍太さん、お願いします。
龍太:まずはサイボウズという会社の成り立ちから説明いたします。もともとは愛媛県の松山市で、3人で起業した会社です。ちょうど20周年を迎え、今は従業員数643名という大きな会社になりました。日本だけでなく米国、中国、東南アジアに拠点を持っています。
kintoneも含まれるグループウェアと呼ばれるシステムを主に開発しています。製品開発の目的は、情報を共有し「効果・効率・満足・学習」を高めようということです。おかげさまで多くの方にお使いいただき、日本ではトップシェアを頂いています。
サイボウズという会社には「チーム」というキーワードがあり、「チームワークあふれる会社に、チームワークあふれる社会にしたい」というミッションの下に仕事をしています。その中でkintoneというアプリがあり、今日はこれを使って「農業も一つのチームになったほうがよい」という思いを伝えていけたらと考えています。
農家は、小さなところは一家族でやっていて、ひょっとすると独りぼっちのような感覚で農業をしている方もいるのではないでしょうか。私たちは、この方たちにもっと地域のチームに、さらに地域を超えたチームになってほしいと思っています。今日登壇される方は、多くがすでにチームになって農業をしている方たち、もしくはチーム化が見えている方たちです。
さて、kintoneがどのようなものかを、ここで紹介したいと思います。「100農家いれば100通りの農業」のテーマのとおり、農家さんが管理したい情報はそれぞれ異なります。ですからkintoneは、必要な項目をカスタマイズして使用できるようになっています。例えば「どの作物が」「いつ」「どれだけ採れたか」という情報を入れたい場合は、「日付」「野菜名」「圃場」「数量(パレット)」と入れていくだけで、すぐにチームで情報を共有できます。
このようにkintoneは、簡単にデータ共有のアプリを作成できるのです。実際にいろいろな農家さんが使っています。
■農家とITの進捗度は?
小林:農家さんでITやクラウドを使うなどの取り組みは進んでいますか。
窪田:統計がありまして、5年前のデータでは、回答した農家の半数がITを使っていました。ただ、その中身はインターネットを使って防除や気象のデータを調べるといった程度で、クラウドを使うような本格的な取り組みはまだ非常に少ないというのが、現場の実感です。
小林:では今回、お話しいただくのは最先端の方という認識でいいでしょうか。
窪田:そうだと思います。
小林:今回、登壇される方以外で、面白い連携の事例はありますか。
窪田:つくば市のHATAKEカンパニーという会社はベビーリーフなどを作っているのですが、まったく農外から参入されて、20年で年10億円の売り上げを上げるようになりました。ここは畑にセンサーを取り付け、積算気温を計測し、ベビーリーフの収穫時期を予測しています。また、Excelにより生産量を大まかに計算・把握し、種をまいてから発芽するまで、そして生育するまでを計算し、だいたいどの時期にどれだけ採れるかということも予測しています。同社は、この管理システムを契約農家へ提供し、全国で120ヘクタールを展開し、さらに急成長しているのです。
小林:農家がビジネス領域で抱えている課題などはありますか。
龍太:「経験とカンによらない農業」というキーワードで行くと、「温度」「湿度」などといった環境のデータはIoTで入力できます。一方で、出口部分である「収穫高」との相関関係を見るような場合、「どれくらい」「いつ頃伸びた」「本葉からどれぐらいの葉っぱが出た」いった内容は調査が難しく、調べる人がいないのです。
ロボットやIoTが解決できればいいのでしょうが、そのようなパーフェクトな技術は今のところありません。ですから、こういった人たちが寄りそえるチームづくり、チームの中に調査を担う部署づくりをしていければ素敵だなと思っています。
窪田:いま農家の方から出てくるのは、人手不足の話。大分で大面積の農業をしている知人も、耕作地を広げれば広げるほど人手不足となってしまうと嘆いています。このため、ロボットの開発をしてほしいという声があります。去年、RobiZy(NPO法人ロボットビジネス支援機構)という、ロボットを作ろうという団体ができました。皆さんもこの団体に注目していただければと思っています。
小林:ロボットで、というのは刈り取りなどですか。
窪田:試験中のロボットはセンサーが付いており、畑の中をモニタリングするものがあります。また、種まきや収穫に関する一連の作業を1台でできるロボットが年内にできるとも聞いています。
■セミナーのポイントは三つ
小林:今日のセミナーで意識して聞くポイントなどを教えてください。
窪田:一つは「経験とカンから、科学とテクノロジー」へのシフト。NKアグリや門川高糖度トマト組合などはそういった取り組みをされていると思います。龍太さんが先ほど言っていたつながりでは、「新たな連携」ができているという点。「農福連携」などが行われた事例も紹介されます。最後に、「ITは難しくない」ということを今日のセミナーで感じていただければ、うれしいです。
小林:ありがとうございます。ぜひ、この後のお話を楽しみにしていただければと思います。
「GAP(農業生産工程管理)とkintone」(神奈川)
kintoneでGAP(農業生産工程管理)認証を獲得した事例と今後のGAPの展望
元気もりもり山森農園 山森壮太氏
サイボウズ JGAP指導員 雲岡純司氏
元気もりもり山森農園は、一般的な農家が大きくなって法人化した会社で、ニンジンやダイコン、キャベツを作っている。同社では2013年、食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証「J- GAP」を取得し、2017年に「ASIA GAP」に更新した。この認証は、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会で食材調達の基準にもなるものだ。
同社では、障害者施設「虹の橋」も運営しており、除草や収穫、洗浄、袋詰めなど、一部の作業を彼らに委託している。このおかげで、社員は時間に余裕ができた。
「虹の橋」でも、利用者の事業所に通う時間や日数が増え、能力の開発が進み、従来以上の働きをする利用者も現れた。従来は近隣の菓子店でクッキーを焼く仕事をしていた人もいたが、農業のほうが給料を高くでき、この事業を推し進めることにした。工賃が全国平均より高い14000円以上で、生活保護から脱却できたという人も現れ、理想的な「農福連携」が実現している。
山森氏は「障害を持っている人も、みんな働ける。農業をすることでアトピーが治ったり、生活習慣が改善したりという効果もあり、それに合わせて当社以外への一般就労ができるようになった人もいる」と振り返る。
しかし、農園では、多くの障害者の就労を受け入れたため、職業支援員や生活支援員などとの連携がうまくいかず、障害者が農作物の安全性を脅かす行動を取ってしまう心配まで出てきた。これを解消するために「GAP(Good Agricultural Practice)」を導入した。
GAPは播種から消費者に届けるまでの行程を区切り、部分最適と全体最適をしていくもの。このため、行程管理では、社員が苦手とする事務作業が増加してしまった。また、その内容を共有したいとも考えたが、紙やExcelベースでは難しかった。山森氏にはGAPのための管理だけでなく、経営者としてはコスト管理もしたいという思いがあった。「そもそも農園全員で取り組まないとGAPの意味がないという考えもあった」と山森氏。そこでkintoneの導入となった。
実際の運用でいちばん使っているのが「おしらせ」のカラムで、トレーサビリティーを行う際、「どれが」「いつ」「どこで」収穫されたかを追いかけている。Excelでこの作業を行っていた時はルックアップの機能を使いマクロを組んだが、使っているうちに誰かが消す、使い方が分からないといった声が上がった。
▲ 誰がどのような作業をいつしているか
▲生産計画表
kintoneでは、農場ごとの基本的な情報とつながっていて、そこから「農薬」や「肥料」をどれくらい使ったかを自動で計算してくれる。またいちばん下には直接的な原価を出せる項目もある。また、出荷記録から「土壌」の記録につながるなど、必要な情報の逆引きが可能で、しっかりとしたトレーサビリティーができる。
同社では13枚の圃場があり、すべてで2期作をしているため、Excel管理では限界があった。kintoneの場合、取引先への情報開示の際はExcelへの出力ができ、各流通のフォーマットを入力しておけば、基本的な情報をすぐに開示できる。
▲左から、山森氏、雲岡氏
サイボウズの雲岡氏は、「6次産業プロジェクトの中で、GAPの指導員認定を取った。神奈川初のGAP認証圃場である山森農園で視察のためにアプリをつくられていて、そのお手伝いをしたという経緯がある。今後もさまざまなアプリ開発に協力していきたい」と語った。
「農福連携とkintone」(埼玉)
農福事業の実際と山森農園との連携
障害者が受け持つkintoneでの仕事
埼玉福興 新井利昌氏
本庄早稲田国際リサーチパーク 佐藤徹氏
佐藤徹氏は今回、埼玉福興代表の新井利昌氏の代理で登壇。公益財団法人の本庄早稲田国際リサーチパークで産官学連携コーディネーターを務めている。
▲佐藤徹氏
新井氏はビデオレターで出演し、「楽しみにしていたが、行けずに残念である。当社はソーシャルファームという社会的企業を運営しているFARM(農場)であってFIRM(企業)。そこでは障害のある方や、ニートや引きこもり、シングルマザーなど、社会的に働きづらさを抱えた人を支援する取り組みをしている。kintoneは、当社とスタッフ、またはスタッフ同士のコミュニケーションツールとして使用。これは人間の能力が足りない部分をAIやICTが補うスタイルで、新しいオーガニックのスタイルとなるものだと考える。まずは人が中心の農園を目指しており、障害者雇用でのkintone運用を皆さんにお伝えできればと思う」との考えを伝えた。
▲新井利昌氏
ソーシャルファーム(Social Firm)は、労働市場で不利な立場にある人の雇用を創出するための社会的ビジネススキームである。1975年北イタリアで生まれた概念である。精神障害をおった方が社会にとけこむため、閉鎖病棟ではなく開放病棟としての社会復帰を支援しようとした。しかし当時はまだ社会の受け入れ態勢ができておらず、看護師自身が「企業を作ってしまおう」と、この取り組みを開始した
埼玉福興は、このソーシャルファームの日本の先駆けとなる取り組みをするとともに、福祉の枠組みからこぼれ落ちてしまうような社会的弱者を救済することも目的としている。この社会的弱者の数は人口の15%にあたる2000万人とも言われており、今後増えるという予測もある。
埼玉福興は、そのような社会的弱者の集まるグループホームとして新井氏の父が設立。当初は内職などの仕事を請け負っていたが、社会事情の変化から次第に立ち行かなくなり、農業に転じた。農場経営は精神障害者にとってメンタルを向上する効果があり、その点でも非常に注目されている。
農場の規模は水耕栽培(水耕葉物)が600坪、野菜苗・花卉が400坪、圃場が4ヘクタール、オリーブも2ヘクタールで栽培し、商品は国際的なコンクールで金賞を獲得している。また、最初に発表があった山森農場は、先代の時代から交流がある。
一般的に障害を持った人の施設は国による区分けでA型とB型が存在する。A型の施設は障害者との雇用契約を結ぶもので月の給与は7万5000円ほど、B型は契約の必要がなく1万5000円ほど。このためB型の場合はほとんどが生活していくことができない。埼玉福興ではこれをA型にしていく施策をしている。それも国の補助金を得るのではなく、農業でこれを賄うことを目標としている。
このソーシャルファームによる農場経営で出てくる課題を解決するために使用しているのがkintoneだ。
何が原因でどうなったかという関係図を作ってみると、やはりしっかりとした生産管理ができていない。しかしそれ以前に重要なのは、チームがきちんとできていないと生産管理もできないよね、と明らかになったことだ。
例えば「誰かが休んでも、他の人に仕事が割り振られる」「業務、知識、ノウハウが共有される」「チームの核になる人間が障害者の中から育つ」といったことだ。それを、kintoneで賄えることが分かった。
▲ノウハウの共有1
▲ ノウハウの共有2
デモンストレーションでは農福連携の部分を紹介。スタッフの「体調管理」について4段階で表現しており、「自己管理」といった項目も入れ込み紹介した。
▲体調管理
「自己管理」では、日々の体調について本人のコメントがあることから、普段言葉をほとんど発しないスタッフの声がコメントとして上がり、社員同士のコミュニケーションと共有に発展し、チームづくりに効果があったという。
▲コメント欄
また、「GAPの工程管理」については、山森農場のkintoneのアプリを提供してもらうなど、他農場との連携にも発展している。
「IoT農業とkintone」(和歌山)
IoTが農業にもたらすもの、IoTを利用したkintoneの紹介
NKアグリ代表 三原洋一氏
ジョイゾー 山下竜氏
NKアグリの三原洋一氏は、「kintone AWARD 2015 ファイナリスト」で「kintone AWARD 2016 審査員」を務めている。「Good Design Award 2017」では「ものづくり特別賞」「Best 100」に選出されるなどで活躍している。
▲三原洋一氏
ジョイゾーの山下竜氏は、kintoneエバンジェリスト。ジョイゾーはkintoneの導入支援を行う会社で、山下氏いわく「100%kintoneでご飯を食べている」という。昨年はサイボウズの米国子会社に70日間出向するなど、同社とのかかわりが深い。
NKアグリはノーリツ鋼機の農業分野コーポレートベンチャーとして立ち上げ9年目の会社。kintone導入のきっかけは交通費清算だった。三原社長が和歌山の本社と関東の自宅の行き来の書類手続きに手間がかかっていたため、kintone に置き換えた。これはステップ1である。第2のステップでは約3カ月かけて、同社の40ほどある業務をkintoneに集約。そこから社員の情報共有がうまくいった。そして、第3のステップとしてIoTでの栽培管理を行っている。
山下氏は「kintoneのいいところは、事業のスケールに合わせてその内容を広げて、便利に使っていけるところ」と分析する。
NKアグリで生産しているリコピン人参「こいくれない」は通常の人参にはほぼ含まれないリコピンを含有しており、甘く、赤いことが特徴。ダイエーなどで販売しており、ジュースのような加工品もある。この「こいくれない」は、当初NKアグリの自家生産のみだったが、現在は日本各地にある50カ所の提携農家で栽培している。
栽培では、南北に点在する全国7カ所の農場にセンサーを設置。栽培面積や播種密度、発芽率などの情報を基にニンジンの成長や機能性成分量に関わる環境因子の解析、特定し、kintone上で収穫時期を予測できるようにしている。センサーからIoTクラウドを挟み事象を解釈してから、必要な分の情報だけをkintoneに入力しているのもシステムの特長だ。
また、kintoneを使うことで各農家が集荷時期をずらし、年間を通した安定供給が実現した。
デモでは、センサーから得た積算温度を計算し、前年の積算温度の記録から目標温度を設定していることを紹介。kintoneのプラグイン機能を使用し、各地の農家がそれぞれの目標温度で活用できる仕組みとなっている。
三原氏は「kintone活用のポイントは生産管理ではなく販売管理」「もともと工業からきたので製品の製造を制御するように、野菜の生産制御に挑戦したが、これは非常に難しかった。また、消費者の需要も制御できない」という。
この生産と需要をどう管理していくかが重要で、担当者が独自のKPI(Key Performance Indicator)をもっており、数値をkintoneに入力。「定量的な実績数」に対し、毎日の作業報告の後で担当者がコメントし、営業や他部門と議論することで、どう売り分けていくかというコミュニケーションをしていく。これにより、売り残しがなくなり、製販の需給調整の精度が劇的に向上した。
もともと野菜プラント(工場)を運営しているNKアグリだが、2009年の設立から4年で生産量が30%増加。一方で販売ロスは劇的に減り、通常の農家よりグラムあたりの売価が最大8倍となっている。
▲コメント欄で議論
kintoneのコメント欄は、生産をみている担当者も営業担当者も出先からも書き込みでき、社員がすべて共有できる点も便利。「売り残しがなくなり、コミュニケーションができるようになった。相手の考えがわかるので、社内のケンカが少なくなった点がありがたい。そこがIoTなどよりも大事」と三原氏。また「流通はAIを使った自動発注が始まっているのに、農業はそれについていけていない。産業として継続するなら、野菜を制御するのではなくテクノロジーを使い収穫時期を予測し、流通とのすり合わせを進めていくことが必要」と締めくくった。
「野菜ソムリエによる食の祭典」登壇農家の食材を利用したレシピ紹介
野菜ソムリエプロ・オーガニック料理ソムリエ 松本久美子氏
野菜ソムリエプロ 土師智子氏
野菜ソムリエプロ 栗原美由紀氏
前半の最後「野菜ソムリエによる食の祭典」と題したセッションでは、NKアグリのリコピン人参普及で活躍している「こいくれない」アンバサダーの野菜ソムリエプロ3氏が登場した。今回は懇親会のために、登壇農家が野菜を提供。その野菜を材料に野菜ソムリエが腕をふるった。
▲ 左から栗原氏、土師氏、松本氏
ウェルカムドリンクとして用意されたのは、こいくれないで作ったジュース「こいくるん」をスパークリングワインで割ったカクテル。料理は、登壇者から提供された野菜で作ったカレーやそのつけあわせにぴったりのピクルスをはじめ、こいくれないでつくったエビフライのようなフライ。野菜ピザ風スナック菓子など。
デザートには、お砂糖をほとんど入れなくても十分甘い、高糖度トマトのジャムを使った、トマトのブラマンジェ。
そして、バレンタインということで、ドライフルーツやドライベジタブルをチョコにのせたベジフル チョコマンディアンまで用意されました。
メニュー
・ウェルカムドリンク「こいくるん×スパークリングワイン」(NKアグリのこいくるん)
・カレー「VEGE CURRY」(山森農園の大根・サイボウズのりゅうた米)
・鹿沼アンリロシェフ直伝「なにこれこいくれない人参フライ @うまうまタルタルソース」(NKアグリのこいくれない人参)
・「vegeピザ風・スナック」(森とまと農園の高糖度トマトとアスパラガス、JA三浦のカリフラワー)
・「真砂豆腐のネギ葱ソースかけ」「島根真砂の真砂豆腐と葱」(いろどりの葉わさび)
・野菜のピクルス・エトセトラ(島根真砂のヤーコンと白菜・JA三浦のカリフラワー・NKアグリのこいくれない人参)
・「キャベツのサブジ」(JA三浦のキャベツ)
・「彩りレタスとこいあおなのサラダ @NIPPNのドレッシングと共に」(埼玉福興のサラダほうれん草・水菜・ルッコラ・スイスチャード・フリルレタス・赤サラダからし菜、NIPPNのこいあおなケールとアマニ油入りにんじんドレッシング)
・「高糖度トマト ふるふるブラマンジェ」(森とまと農園の高糖度トマト)
・「ハッピーバレンタイン ❤ ベジフル チョコマンディアン」(NKアグリのこいくれない人参)
「JA日向門川と門川高糖度トマト組合の新しい関係」(宮崎)
JAと生産者組合との役割とkintoneを使ったチームワーク
門川高濃度トマト組合 森雅也氏
ダンクソフト/ソフトビレッジ 片岡幸人氏
テラスマイル 金田千広氏
▲門川高濃度トマト組合 森雅也氏
門川高濃度トマト組合の森雅也氏は、現在、宮崎県で高糖度トマト、リーフレタス、アスパラガスの生産と仕入れ販売営業業務を担当している。また、「kintone + RightARM」を生産管理、販売支援ツールに活用中で、さらなる機能向上、使いやすさを追求して開発を継続している。
門川高濃度トマト組合では当初、kintoneは生産管理のつもりで導入したが、現在は販売管理での活用にシフトしている。トマトの販売は、農協の選果場に出して出荷する場合は、手数料を払う分、厳密な生産管理は必要なかった。
農協ではなく、量販店など小売りへの直接出荷は、10%ほどの手数料を支払わなくてもよい反面、数量を指定され、多すぎても足らなくても駄目という厳しさがある。このため収穫予測をしなければならなかった。現在8人でやっており、二人の時はなんとかなっていたが、5人の組合になった段階で、紙ベースのやり取りや生産予測が破綻してしまった。このとき、NKアグリがkintoneを活用して課題を解決しているという話を聞き、中村龍太氏に相談した。
デモンストレーションでは、生産者が多くおり、播種日も細かく分かれているといった組合の実情を説明。kintoneでは播種日スケジュールの決定をソートで簡単にできる。スケジュールが一目瞭然で、今後の播種予定日を入力することで、実績にもとづいて、おおよその出荷開始日が表示されるので、全員が収穫から出荷のスケジュールまでを管理できることなどを紹介した。もともとこれを使っていこうと考えていた。
▲栽培計画の画面
いちばん使っているのは栽培選果機データである。農協の選果機データではセンサーにすべてのトマトを通し、糖度や大きさなどのデータを取る。この結果はCSVで出てくるのだが、ダンクソフトが開発した仕組みを活用して、これをkintone上に取り込み、分析を行う。この実績値を基に行う営業会議での翌週の収穫予測が、プラスマイナス10%に収まる正確さになった。
▲収穫予測を表示した画面
▲システムを開発しているダンクソフト 片岡幸人氏。高知県の会社で、宮崎とは主にテレビ会議で開発を進めていった。
さらに、kintoneのデータを活用し、別のアプリを連携した仕組みを導入している。
また同組合に導入される新たなシステム「RightARM」を、開発したテラスマイルの金田千広氏が説明。同社は、生駒祐一代表が赤字のトマト農園を再建し3年で黒字化したコンサル実績を応用し、農家の右腕のようなシステムを作った。数値管理で農業経営を伝授していたノウハウを「RightARM」にもりこんだ。データを入力さえすれば、指標を閲覧できるというもので、「昨対」から「予測」を機械学習的に行い、さらに精度を高められる。
森氏は「このRightARMは使えると感じた。さらにシステムを開発し、システム自体を外販していけるように頑張りたい」と話す。
▲テラスマイル 金田千広氏
「JA三浦のITを使った改革!」(神奈川)
有線放送からタブレットに変えた市況情報の発信、配車の事務作業を一変させたkintoneの活用
サイボウズ 農協担当 中澤洋之氏
三浦市農業協同組合 飯島昌祥氏
三浦市農業共同組合とよこすか葉山農業共同組合の2農協で集荷を行うための配車システムとしてkintoneを活用。従来、手作業で行っていた21カ所の出荷場への集荷トラックの手配を自動化した。
従来の配車は、各農家が提出してくる出荷内容と地域、100台以上あるトラックの積載量を勘案しながら、担当者が行っていた。野菜は約40品目で毎回600トンを集荷するため煩雑を極め、担当者が5~8時間ほどもかかって終わらせる過酷な仕事だった。さらには効率の良い積載手配やルート設定ができず、常に多めにトラックを配車するという無駄もあった。
これを各農家にkintoneで入力をお願いし、集約。集荷内容とトラック、地域、ルートを組み込んだアルゴリズムを作り、ワンクリックするだけ、わずか1秒で配車の手配が終了するようになった。配車ルートは洗練されたもので、野菜の鮮度を落とさず集荷できるうえ、人がルートを組むより台数を20台ほど削減できるという。配車表には、トラックの残りスペースも表示されるため、人間が機微を見極め積む荷物を乗せ換えられるなど、融通の利くシステムとなっている。
上図にある「アルゴリズムを選択」では、アルゴリズム1からアルゴリズム3まで選ぶことができる。人間が考えて配車するものを「アルゴリズム1」、人が考えるよりもより良い仕組みを「アルゴリズム2」、今後増えていくデータをビッグデータとして分析して配車するものを「アルゴリズム3」としている。
たとえばアルゴリズム1を選択するとトラック総台数が106台だが、アルゴリズム2を選ぶと85台に減らせる。ただし、アルゴリズム3の仕組みはまだ完成していないので、これを選ぶと現時点ではアルゴリズム2よりも多い90台になってしまう。アルゴリズム3はこれから開発を進めていく。
飯島氏は「職員の負担が軽くなり、他の仕事ができるようになった。効率の良い分荷配車ができるため、コストを抑えられたことも大きい」と、このシステム導入の効果について述べる。
▲中央 サイボウズ 中澤洋之氏、右 三浦市農業協同組合 飯島昌祥氏
三浦市農協とは農業のIT化推進の連携を進めており、昨年は有線放送による情報共有から、サイボウズに入れ替え、市況や概況などを共有するプラットフォームを構築した。組合員の農家に675個のタブレットを配布しているため、タブレットで売れ筋やお知らせを共有できる。また、このシステムを使って農家にとっては生産面や出荷面での効率、市場にとってはタイムリーな仕入れと出荷をさらに進めていくという。
「小さな拠点における農食育連携」(島根)
小さなコミュニティーにおける理想の農業
kintoneが奏でるおばあさんと保育園の食育連携
(一社)小さな拠点ネットワーク研究所 檜谷邦茂氏
檜谷邦茂氏は島根県の職員。県ではできない仕事内容もあることから、小さな拠点ネットワーク研究所を設立し、地域のお年寄りと保育園を結ぶ農食育連携をICTで支える取り組みを行っている。
▲檜谷邦茂氏
島根県益田市真砂地区は人口388人、高齢化率53.1%という地域。この地域のおばちゃんが自家菜園で作った農産物を保育所の給食用として提供するのが、その活動の中身だ。
もともとおばちゃんたちが作る野菜は、自分で食べる目的で作ったもの。このため、計画的な収穫や出荷などは何も考えていなかった。収穫量の目標はなく、できなければそのままあきらめ、作り過ぎれば放置されるケースもあった。
このため、給食用途の安定供給に必要な「何がどれだけ出荷されるか」が分かりづらく、保育所から「何キロ持ってきて」と言われても、集荷所でそれを慌てておばちゃんたちに振り分け、「持ってきて」と言うありさまで、届けるのに一苦労といった状態だった。
そこで、収穫予測をおばちゃんたちに申告してもらうことで、課題を解決。ここにkintoneの力を借りているという。kintoneでの管理の特徴は、少量多品目への対応。何を作っているかをおばちゃんたちに聞き、品目を増やしており、商品マスターには196種の野菜が登録されている。
▲保育園が野菜を注文するフォーム
▲加工品の商品一覧(真砂の食と農を守る会側の管理画面)
通常であればメニューを決めて材料を購入する。真砂では毎月1回保育所関係者とおばちゃんたちが顔を合わせ、どの野菜がこれからできるか、どのくらいできるかを調べてから、何のメニューにするか決めるのである。これにより、生産される農作物をフルに活用できるようになった。
安全安心な土作り講座を公民館でおこない、知識もつけてもらっている。作り過ぎた野菜が捨てられることなく、安心な野菜を地産地消するルートができたため、おばちゃんたち自身も生き生きとしてきて、「子どもたちが困るから、病気になっとられん」という気持ちが醸成され、地区に活気が出ているという。
学校ではなく、保育所と組んだ理由は規模の違いである。保育所は手作業で調理する規模なので、多品種少量の野菜料理に対応できる。学校は量が多いため、野菜の皮を剥くのは機械になる。機械を使う場合は材料のサイズの均一化が求められるため、おばちゃんたちの形やサイズが異なる野菜では対応できない。
一方、保育所では、年間を通して地元の野菜を同じ価格で買えることから、給食費が下がり、和食が多く健康的な献立になった。この活動を知った子育て世帯が「真砂の保育園に子どもを通わせたい」と流入が増え、人口減少の幅が小さくなってきている。
出荷日に合ったものを保育所に聞いて「使う」というようなフレキシブルな対応は、おばちゃんたちと保育所を巻き込み、関係性を作り、kintoneを活用しながら構築したもの。400人の集落がクラウドを使って野菜の地産地消を実践する、他にはない事例となっている。
この小さな規模でクラウドを有効活用している様子を見ると、視察に訪れる多くの人が驚くという。住民の具体的な取り組みに地に足のついた形で入り込んでいくことが、今後の地方創生でも大切ではないかとしめくくった。
「葉っぱビジネスからの脱却」(徳島)
生産者、農協、消費者間の情報交換を円滑にすることでの「儲かる農業」
いろどり 大畑悠喜氏
レキサス 常盤木龍治氏
いろどりは、1986年にスタート。「料理のつま」として使用できる樹木や植物の葉を収穫して市場に供給するというビジネスで、現在は年商2.6億円を稼ぎ出す。ユニークなのは同社の契約先の農家が平均年齢約70歳、最高齢は92歳というお年寄りが中心であること。約165軒が参加し、年収1000万円を超える農家も出ている。商品は320種類あり、年間を通して仕事を作ることにより、過疎地でも定住できる環境を創出した。
▲いろどり 大畑悠喜氏、レキサス 常盤木龍治氏
いろどりでは農家を取りまとめてきたが、規模が大きくなればなるほど、運営は多忙になっていった。24時間動く市場と農家との連絡が煩雑で、休みも取れない状態に。この事態の解消を目指していた時にレキサスを紹介され、kintoneの導入を決めた。
新しくしたのは情報の発信の仕方。従来は農協に注文が入るため、農家は農協が営業を開始する午前9時から仕事を始めていた。しかし、農家の起床時間はだいたいが午前5時。このため、9時までの4時間はダウンタイムとなっていたのだ。kintone導入後は、仲卸から直接注文が入るため、午前5時には注文がそろい始めている。これにより、起きてすぐ注文をさばけるようになり、時間に余裕ができたことから欠品も減少した。
また、kintoneにより農家がクラウドで情報共有しているため、注文が入った際、どの農家が受注するかは競争になる。これにより、農家のモチベーションが上がり、高齢者が元気になった。なんと、要介護者だった人が同事業に参入し、復帰して納税者に戻る。高齢のおばあちゃんが孫のためにキャッシュで家を買ったという、すごい事例も出ている。
▲農家が注文をとるための画面
▲個別の葉の市況がわかる画面
農家の働き方はそれぞれで、出荷額1~10位の農家は激しい競争を繰り広げており、朝は数個のタグで市況情報を開き価格を見ながら、投入する商品の選別をするといったこともある。「〇〇の業者に出したら儲からないから、注文に応えない」といった、高値で売りたい農家が注文をスルーするといったコスト感も生まれるようになった。
一方で、出荷額100位程度の農家は1日1~2ケースほどを出す、無理のない出荷を目指す。もっとランキング下位の農家は、健康のため1週間に1~2回収穫しているといったのんびり感があり、多様性を認めるビジネス展開を実現している。
去年kintoneのシステムを入れてから、出荷数量はほぼ変わらず、売り上げが1600万円増加。さらに欠品が減ったことで注文が増え、今は人手が足りない状況となった。このため、これまで比較的いやがられていた、地域外からの参入を認める雰囲気も出てきている。
いろどりではこのシステムをもとに、事業の全国展開を始めている。大畑氏は「びっくりするくらい消費者の声は、生産地に届いていない。これを変えるだけで、いろどりのように数量は変わらず、売り上げを増加させることが可能だ」とまとめた。
「kintoneを使って学べるアグリの可能性など」
農林水産省経営局経営政策課 渡辺一行氏
サイボウズ アグリ担当 中村龍太氏(モデレーター )
▲農林水産省 経営局経営政策課 渡辺一行氏
セミナーの最後は「kintoneを使って学べるアグリの可能性など」と題して、農林水産省の渡辺氏と、司会を務めた龍太氏がセミナー全体を振り返った。
龍太:まずは自己紹介を。
渡辺:私は経営局というところで、元気の良い農家を支えています。「農水省内を変えるためのワクワクするネタがないか」とさまざまな場所に飛び込んだ結果、中村さんに出会い、今日の登壇となりました。農業者の働き方改革も進めていこうという動きもあり、取り組みを進めています。
龍太:一般の農家の働き方は、ブラックなんですか。
渡辺:営農の品目や方法によって異なると思います。稲作に関しては、実はそれほど労働時間は多くはありません。一方、野菜や園芸などは、ピークの時は多忙ですが、オフピークの時はわりとゆったりとして自分の趣味などもできるといった感じ。そういうことが農業の魅力でもあります。
■ビッグデータの活用も
龍太:確かにそうですね。さて、今日セミナーの感想を聞かせてください。
渡辺:冒頭の基調講演で、窪田さんから、「経験とカンから、科学とテクノロジー」「新たな連携」「ITは難しくない」という三つのテーマをいただきました。いろどりや真砂地区の取り組みでは、高齢者でも使える、誰でも使えるインタフェースがあることを確認できました。
「連携」では、92歳に生きがいをプレゼントするシステムや、保育所とおばちゃんをつなぐというシステムがありましたね。「つなぐ」というところでいくと、JA三浦が取り組んだ、配車作業の8時間が1秒になるというのも興味深かったです。「物流」と「農家」をつなぐためのJAの苦労にびっくりしました。価値ある仕事に人を回せる取り組みとして注目できます。
龍太:アルゴリズムを変えることで、配車の台数が変わるなど、どんどんシステムが良くなるというのもワクワクしましたよね。
渡辺:ワクワクしますね、これは。なんでも横並びにするのは行政の弊害といわれますが、ビッグデータに関しては横に広がることが大事で、使用例の増加で精度が向上するので、農水省もしっかり取り組まないといけないと感じました。
■デジタルだから見えたアナログな心
山森農園の例は、障害がない方でもひょっとすると大変と感じる仕事を、アプリケーションを使って、誰もができるようにするという取り組みでした。新たな方法で障害者の収入を上げることで、「農福連携」が見えてきました。
龍太:障害者の方の中には、おしゃべりは苦手だけれど、PCの前では燃えて書き込めるという人もいます。ITを使ってコミュニケーションをとり、自分の居場所を確保できているというのは非常に感動しました。
渡辺:デジタルのITがあることで、アナログな心の部分が共有できるというところが非常に興味深かったです。また、数値の横にコメントを残し、環境要因なのかオペレーションの問題なのかを分析して解決するというのも面白いなあと思いました。
龍太:僕もNKアグリの社員ですが、あのコメントの中でケンカまでしているんですよね(笑)。コメント欄がなぜあるかというと、事実としての数値に加え、自分の解釈を伝えることをサイボウズでは重視しているからです。「何個売れた」という数値と「それでどうなるの」という解釈も大事で、両方の情報を共有することでモチベーションや貢献感が上がると考えています。
渡辺:ITというと「数値だけ把握するつもり?」というイメージがありますが、そういうことではない側面が作業の効率化や生産性に役立っているという点は、興味深いですね。NKアグリは野菜工場として参入し、生産や需要の管理が難しいことから販売管理に移行したという話も、大きな気づきとなりました。
龍太:需要予測では単価の維持や上昇といったことへの投資が大事。農家がたくさん作って結局「価格が下がりました」とならないことが必要です。ITの会社はどうも生産をいかにアップするかの方に向かっていますが、そうではなく単価を上げるためにどうするかを考える出口管理をしっかりすることから、生産管理もしてしまうほうがいいようです。
渡辺:門川高濃度トマト組合の開発を行ったテラスマイルの話を以前聞きましたが、畑1枚ごとに収穫高が出てくるそうで、父子でどっちの効率がいいか、といった比較をできるのです。もちろん、ただ競争するのではなく、これがコミュニケーションの一つで、「俺のほうが正しかっただろ」と確認し、互いにスキルアップできる。そのうち二人がロットや出荷タイミングをそろえるといった、協力した取り組みができるようになりそうです。
■会場とのディスカッション
龍太氏の呼びかけで、参加者と渡辺氏が質疑の応答を行った。
会場:施設野菜のハードウェアに関する補助金は間違っていると思います。実際、格差が広がっている。「あなたたち、もらわなくても」という人がたくさんもらっている気がします。補助金政策について、現状と今後を教えてください。
渡辺:補助金は結局、政治的に決めている部分があります。欧米では、補助金の効果が科学的に分析されており、補助金によって、どのくらい給与が向上したりコストダウンしたりしたとなるのかということを考えて出しています。今、行政ではEBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)と言われていますが、実際は「エピソードベース」「エモーションベース」で補助金が支払われることが多いのは間違いありません。農業人口、経営体が減る中、そういった補助金の出し方は減っていくのではないでしょうか。今後、意欲的な設備投資や経営ができる人たちを助けるような補助金になればいいと思っています。
会場:環境整備をしているソフトウェアの会社のものですが、機械や設備を入れる前に栽培技術が浸透していないケースが多い。栽培技術を共有し、経営基盤を作ったうえでないと、お金をかけてハードを入れても、何もできていないことが多々あります。栽培技術から落とし込んで、ハードを生かす技術にしてほしいと感じます。
渡辺:新規就農の支援期間が終了した後、技術が身につかずに辞める人がいるのは確かです。いまその背景を調べています。確かなことは言えませんが、指導法も含めて、教えと学びのミスマッチや相性、コミュニケーションの課題もあるのではないかと推測しています。
龍太:人同士、コミュニケーションの問題はあるかと思います。学びも相関関係をしっかりデータ取りしていくことが大事ですね。クリアに学んでいく人がほとんどいないので、そこに寄り添う支援、リソース、補助金を向けられるといいのではないでしょうか。
檜谷さんのところは、どのように地元の方へ有機栽培を教えているんですか?
檜谷:先生をお招きして、地元にあるものでどのようにできるか教えてもらっています。安全な作り方をしているということで、保育所に通わせている保護者も喜んでいます。
龍太:他に会場の方で、感想やコメントはありますか。
会場:東京の大学生で、農業について勉強をしています。生産者の話を直接聞く機会がないので、今日は勉強になりました。来年から農業に関わるので、どのようにITを活かせるか学びに来ました。話を伺って、kintoneを使うと、自分がIT企業のインターンの時に学んだことが活かせるのではないかと思いました。
会場:地域づくりのプランナーをしています。練馬で都市農業の課題となっている休耕地の活性化を進めています。体験農園が盛んで、農業ができる人が育ってきています。そういう人たちと休耕地をマッチングするシステムをIT でできないかと考えながら、セミナーを聞いていました。
渡辺:そういうことができるといいですね。都市農業で、休耕地に若者を呼んでいるところもあります。具体的に考えていきたいですね。
会場:農業がワクワクすると話していましたが、何に対してでしょうか。おいしいものを食べるワクワクなのか、起業するワクワクなのでしょうか。
渡辺:農業の良い点は、いろいろな仕事があり、いろいろな関わり方ができることです。日本では人口減少のスピードより、農家の減少スピードのほうが速い。食べるものが足りなくなくなる。ここはビジネスチャンスではないでしょうか。
また、自然と関わりたいということで、農業に関わる人もいます。作っている人と消費者がつながっていくのを応援したいと考える人もでてきています。
農業はビジネス、おいしい食というだけでなく、人のライフスタイルに合わせて取り入れることができます。多様な一方、伝えるのも難しいのですが、ここを、多くの方に可能性として感じてほしいですね。
龍太:なんちゃって農業を増やすといいと思いますよ。「残業しない」という流れになっているなかで、空いた時間に飲みに行くだけでなく、農業をしてもよいのではないでしょうか。作ったものを自分で食べたり、周りの人に分けたりする。農業の良さを分かって、スーパーで買うこともできますしね。
■農業の多様性は誰かに刺さる
渡辺:私がなぜ今日ここに来たのかというと、100農家あれば100通りという言葉に惹かれたからです。農政は100ある農家を金太郎飴のように考えがちですが、「稼ぐ農家」ということだけ考えても、さまざまな稼ぎ方があります。大きく稼ぐ人がいれば、自分に適正な稼ぎがあればいいという人もいる。また、農業は稼ぎではなく生きがいであるというケースもある。このあたりは世の中に、一般の人にはなかなか伝わっていないなあという気がします。
とある農業法人では、新卒の子を採用することになっていたのですが、それが親の反対で取り消しになってしまいました。その子は「農業なんかもうからない」からと親に言われたそうで、非常に残念なことだと私は思いました。
私たちが農業の魅力というのを伝えることも大事で、農業にはさまざまなスタイルがあることを知ってもらえば、その一つが誰かに刺さることもあるはずです。このあたりは、頭の固い役人には分からなかったことかもしれません。
龍太:最後に、渡辺さんは「ワクワクすることが」と言っていましたが、いかがでしたか。
渡辺:今日は確かにワクワクできました。このワクワクを農業に関心のある方にどうやって届けていくか。ただ誰かの真似をしたのではワクワクしないと思うので、内発的にやりたいというスイッチを押して、新たに農業をしたいという人が増えたらうれしいです。それをつなぐITの可能性を見せていただけたと思います。
龍太:こんなに早くkintoneを活用したいろいろな「農業のかたち」が出てくるとは思っていなかったので、今日は本当にうれしいです。しかし、こういった事例はまだそれほど多くはないと思うので、みんながつながって共有できればうれしいと感じます。今日は本当にありがとうございました。
野菜料理の祭典となった懇親会
セミナー終了後、参加者に行ったアンケートでは、さまざまな視点からの感想や意見が寄せられた。
◇たいへん参考になりました。kintoneは利用したことがないのですが、できることの幅広さに驚きました。
◇もう少しkintoneを使ったデモが見たかった。自社で導入後、タイムカード、栽培管理、生育調査、収量、出荷売上データと大活躍しているkintoneを今後も使いたいと思います。
◇半分会社員、半分農家で働いていますが、事例を用いたセッションはとても参考になりました。家族経営の農家なので親のモチベーションの上げ方の参考になりました。
◇農業×ITの可能性を知ることができ、非常にためになりました。
◇農業とITによって生産以外の部分の変化が大きいと感じました。もっと良くなる未来が楽しみです。
◇具体的事例の目白押しでとても面白かったです。
◇見える化による環境改善の余地があるのがよく分かりました。
◇「『人を中心』に沿った中で、ICT、IoTで足りない部分を補う」とお話しされた方がいましたが、そのような発想でIT事業者としてもいろいろな人とつながり、お仕事できると素晴らしいなと、改めて気付きました。全体通して、どれも良いお話を聞けました。
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